彼は私と同じアパートに住んでいる。階も同じ、斜め向かいの部屋。彼は日中を私の部屋で過ごし、電気代などを浮かせている。
この日だけ、彼は私の部屋に泊まった。
いつものように22時頃自分の部屋に戻ろうとしたとき、一瞬扉を開けて慌てて閉めた。どうやら彼の部屋の前に、なぜか前妻がいるらしい。会いたくないと、彼は私の部屋に身を潜めた。
土曜日のお昼過ぎ、滅多に鳴らない玄関前のインターホンが鳴った。嫌な予感。
恐る恐るドアスコープをのぞいてみると女の人がこっちを見ている。前妻に違いない。
「どちら様ですか」と尋ねると、「●●がここにいるはずだから会わせて欲しい」と言ってくる。
咄嗟に、「そんな人はいませんけど」と答えたら、「ずっと廊下にいました。●●の声が聞こえています。嘘つかないでください」と言われた。
リビングに戻り彼に状況を伝えたら、彼は慌てて出て行った。近くの喫茶店で話をしてくるって。
前妻は一晩中、彼の部屋の前にいたのかな。
ふと彼の部屋の玄関前に目がいく。何か落ちている。レシートを細く細く丸めた棒状の物。夜はどこかに宿泊したんだ。これ、玄関に立てかけておいて、倒れていたら扉を開け閉めしたと分かるように。
前妻のことを「鬼」「金の亡者」と呼んでいた彼。
ねぇ、あなたは私をだましているのですか?
喫茶店でなんの話をしたんですか。